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おもむくまま綴る言葉


by ohisama6262
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命日。③

夜が明けた。
手術の日。

宿った命を完全に取り去ってしまうことが悲しかった。
でも、この痛みから解放されることばかり考えていた。
痛くて身もだえて、ベッドから落ちそうになることが度々だった。

早く夫の顔が見たかった。
面会の時間を待ちわびた。

夫が母を連れて病室にやってきた。
母はこういう事態が苦手である。
必死で違う話題をし(夫の里の名物の話とか)、
明るく盛り立てようとしていた。
少し話に付き合ったが、
私のお腹と腰は変わらず激痛が走っていたし、
そして手術が近づいてきて怖かった。
なにしろここは相部屋の病室である。
うるさくしては迷惑だ。

「少し、静かにして。寝ていたい」
そう母に言い、悪いと思ったけど病室から出ていってもらった。
夫には側にいてもらい、手を握ってもらった。
不思議なことに、少しだけ痛いのは消えた。

手術には大げさにもベッドで運ばれた。
よくテレビドラマで観るあれだ。
夫と母が心配そうに見送るのがどんどん遠くになっていく。
もうすぐぽよ子がいなくなるんだなぁ。
それを感じて、目をつむった。

手術室はやたら広かった。
テレビドラマで観る手術室よりも全然。
そして、人がいっぱいいた。
10人は絶対いた。
手術台に「いっせーのせ」でシーツごと移され、
麻酔を打たれた。
股を開いたとこまでは覚えている。
「みえりさーん、聞こえますか?」と問われて、私の意識は途絶えた。
気がついたら、手術は終わり、私はオムツをさせられてベッドの上だった。
「無事に成功しました」と眼鏡医師は告げ、
ベッドごと病室に運ばれた。

病室でぼんやりしていた。
夫と母は眼鏡医師に話を聞きに行っていた。
看護士が私の血圧を測っている。
ふいに私は聞いた。
「赤ちゃん、いなくなっちゃったの?」
これは、夢である気がしたから。
さっきまでの痛みは嘘のようになかった。
現実だったのだろか?昨日までの出来事は。
「いなくなっちゃったの。でも、大丈夫。絶対また赤ちゃん来るわよ」
看護士はそう応え、微笑んだ。
うん。
私は頷いて、また眠った。

目を覚ますと、夫が横に座っていた。
目を見合わせて「ふふふ」と笑った。
生きて会えてよかったね。
また、会えてよかったね。
でも、ぽよ子いなくなっちゃったよ。
また、赤ちゃん来てくれるよね。
大丈夫だよね。
今度はちゃんとパパとママになろうね。
そんな約束をしたのを覚えている。

2時間して、退院していいと言われた。
午前中まで身悶るほど苦しんだ痛さはどこにもなく、
フアフアしてたけど普通に歩けることに驚いていた。

それからの2週間のことはほとんど覚えていない。
職場から「もう来なくていい」と宣言され、
手紙の1つもないまま、私の筆記用具とパソコンの本が送りつけられたことは覚えている。
さんざんだなぁ、私。と笑ってしまった。

一方、母が大きなすいかを一玉抱えて、やってきた。
2時間近く重いすいかを抱えて、えんやらこらと。
大きなすいかを見た瞬間、素直に「ありがとう」と思えた自分がいた。
こうやって、少しずつ親子の関係が深まっていくのかもしれない。

あっという間に結婚式当日になっていた。
結婚式当日は、幸せだった。
楽しかった。
皆に祝福されて。

その後の経過も良好だった。
血液内科には、いまも定期的に通って経過を観察している。
あの時ほど血小板は減ることはなく、やや少なめで安定している。

しかし夫婦共々待っているのだが、
赤ちゃんはあれから全然やってきてくれない。
神様は私たち夫婦に授けてくれない。

ぽよ子は何故私のお腹に宿り、生まれてきてくれなかったのだろう?

そこで、思う。
夫と出会う前、「いつ死んでもいいや」と思っていた自分がいた。
「生きてる意味」がわからなくて、
なんのために生きていけばいいのか途方に暮れた日々。
自分は必要ない人間だと思っていた。

だけど、違う。

子どもを授かることは、奇跡で、
「この世に生まれること」は択ばれたことで、
運命で、必然で、ワンダホーなことなのだ。

Happy Birthday!
生まれたきた意味なんか考える必要なんかない。
この世にいるだけでいい。
生きているだけでいい。
それだけで。

そう教えてくれたのは、ぽよ子。
ずっと悩んで答えが見つからなかった私に、答えを授けてくれた。
ぽよ子はそれを教えるために、宿り、人知れずに消えてしまった。
ものすごく、ものすごく、いい子。

お母さん、ぽよ子のこと忘れないよ。
Happy Birthday!!!
ずっと忘れない。

私が生まれたことは奇跡。


**************

ここまで、5月下旬に書き上げていた。
そして、また私のお腹に新しい命が授かったことを知ったのは6月はじめ。
待望の妊娠だった。

しかし、また6月13日に命は消えてしまった。
6月は私たち夫婦にとって最悪な月だ。
血小板が少ないことが原因でもなく、
ただ、赤ちゃんに生きる力がなかったと説明された。
妊娠反応が消え、生理がやってきてしまった。
化学的流産というやつだそうだ。

やっと1年ほどかけて、
この世に生まれてくることのできなかった命のことを納得し、
自分なりに答えが出せたと思った瞬間のことだった。

神様はまだ私が生まれたことが奇跡であると思い知らせ、
そして、命の尊さを学ばせようとしているのだろうか?
もう、十分だ。
十分だよ、神様。

人生うまくいかない。

ほんと笑ってしまうくらい。

でも、負けてたまるか。
今は、一番生きていて幸せなことは変わりない。
さらに、我家に天使が舞い降りますように。
家族が増えて、ニコニコがもっといっぱいになりますように。
私が小さい頃からずっと夢だった、一家団欒のある家庭を築けますように。
絶対、絶対、もっと幸せになる。
欲張りで何が悪いんだ、このやろー!!

まずは、夫婦ふたりこの悲しみに負けずに、
強く笑って手を繋いでいくしかないのかな?ね、夫。

******

そしてこの文章を書いた2年後の今、
元気な1歳児の娘の母として、私はいる。

今、命日①、②、③を読み返してみて、生々しく思い出せて泣けた。
心の友と一緒で、1歳児の元気娘は3人目の子ってやっぱり思ってるよ。
ね、心の中ではずっと生き続けてるよね。
ずっと、ずっとね。

忘れずに生きていこう。
天国から守っていてくれる、この世に産まれることができなかった命のことを。
by ohisama6262 | 2009-08-15 22:24